「自分らしさ」という灯火(ともしび)を守るために
松田文雄著『「心の育ち」と「自分らしさ」― 子育てと自戒 ―』を読んで
「ステップ光町」の誕生から15年。子どもたちと歩み続けてきた歳月の中で、支援の技術や知識は確かに積み重なってきました。しかし、ふと足を止めて自らの歩みを振り返ったとき、ある不安が頭をよぎりました。「いつの間にか経験に甘んじ、小手先のスキルだけで子どもたちに向き合ってはいないだろうか」―― 。
私はこの節目を、さらなる成長のための再スタートの好機と捉えました。学び直しの意味も込めて、改めて最新の知見に触れようと、2025年秋から数多くの研修に足を運ぶ中で出会ったのが、医療法人翠星会・松田病院の松田文雄先生であり、先生の著書『「心の育ち」と「自分らしさ」』でした。
本書に流れる哲学を、私たちが日々大切にしている「想い」と重ね合わせながら、一文をしたためたいと思います。
「自戒」の意味を捉え直す
児童精神科医として40年以上、子どもたちの心の深淵に触れ続けてきた松田先生。その言葉は、技術的な「支援」の枠を超え、私たち支援者や保護者の「在り方」を静かに、しかし鋭く問いかけてきます。本書を読み終えて特に心に残ったのは、サブタイトルにもある「自戒」という言葉の重みでした。
私たちはつい、目の前の子どもを「変えよう」としてしまいます。「座れるように」「待てるように」「周りに合わせられるように」。しかし、それは一体誰のためなのでしょうか。
日々の支援の中で、私たちは「座りましょう」「今は何をする時かな」と声をかけ続けています。今日はうまく関われた、今日はダメだった……そんな一喜一憂の繰り返しです。プログラム終了後の振り返りで抱く「自戒」は、これまでは「同じ失敗をしないように反省する」という、負の感情や制約に近いニュアンスでした。
しかし松田先生は、本書の中で「自戒」を次のように定義されています。
「自分の心の歴史を紐解き、『自分らしさの理由』を知ることで、『これからは、こんなふうに自分と付き合ってみよう』という思いを『自戒』という言葉に込めてみました」
(松田文雄『「心の育ち」と「自分らしさ」 子育てと自戒』幻冬舎、2018年、7-8頁より抜粋、要約は筆者)
これは、私たちが普段使う言葉の意味とは大きく異なります。松田先生は、逃げることのできない自分自身と、より上手に、そして楽に付き合っていくための「手がかり」として「自戒」を捉えられているのです。
「自分らしさ」から「他者への気づき」へ
「自分らしさの理由」が理解できるようになると、自分とは違う相手にも「その人なりの理由」があることに気づけます。それが、自分ではない誰かの存在をそのまま受け入れる第一歩になるのではないでしょうか。
私たちが提供しているプログラムに「リトミック」があります。音楽を通じてリズムや強弱の変化を全身で感じ、自己表現を楽しむ活動です 。自分の体を使って表現することで「ボディイメージ」が育まれると、「自分の体」と「自分ではない他者の体」が意識できるようになります。
そこから初めて他者の存在に気づき、相手との関わりが生まれてくるのです。
内面的な「自分らしさの理由」を知ることと、身体的な「ボディイメージ」を育むこと。この両者には、自己を確立した先にある「外向きの広がり」や「他者への気づき」という共通点があるように感じます。
支援者である私に当てはめてみれば、自分自身のまなざしを点検し、子どもが「今、その姿でいる理由」に思いを馳せることこそが、最優先にすべきことなのだと痛感します。
ありのままを受け入れる、最強の味方として
これは、私たちが日々の支援で掲げている「ありのままを受け入れる」という姿勢と深く共鳴します。周囲から見れば不適切に見えるパニックやこだわりも、実は、予測不能で不安な世界から自分を守ろうと、環境からの挑戦に必死に応戦している姿に他なりません。
松田先生が綴る「しつけ」や「ルール」の考え方は、決して子どもを大人の都合に屈服させることではありません。子どもが「自分は自分のままで大丈夫なのだ」という安心の根っこを張れるよう、環境を整えて「待つ」ことなのです。
ビクトル・ユゴーは言いました。「子どもの内にある松明の炎こそ、未来を照らす太陽なのだ」と。松田先生のまなざしは、常にその子の「内なる炎の輝き」に向けられているように思います。
効率や成果が求められる現代社会の喧騒の中で、その輝きは時として見失われがちです。だからこそ、私たち支援者は「不退転の伴走者」として、その小さな灯火が消えないように守り続けなければなりません。
松田先生の示された「自戒」の意味を胸に、私たちはこれからも問い続けます。
目の前のお子さまの「レンズ」に映る世界は、どんな景色だろうか。
私たちはその子の「最強のミカタ」になれているだろうか。
「ここは、あなたのままでいい場所だよ」
そのメッセージを送り続けることが、お子さまがいつか自分の足で、自分らしく歩んでいくための、最も確かな「未来への応援」になると信じています。



